近所のスーパーや八百屋さんに色とりどりの果物が並ぶ季節。
果物には目がない息子があれこれ買ってくれとやかましいのだけど、「桃はもうすぐ固くて旨いのが届くから待っとけ。」と毎年言っている。
学生時代の友人M君は桃農家の長男で、僕が知る限り家業を継いだ同期はM君と僕だけだったと思う。
僕には兄がいるけれど、M君は一人で後を継いでいる。
毎年この季節に届く桃は本当に楽しみなのだけど、それよりも元気で生きているのかが心配で、桃が届くとホッとする。
十年くらい前にM君が地元の消防団の旅行で札幌に来たことがあった。
「僕、札幌に友達がいます」みたいなことを先輩に言ったのだろうか。まだ消防団の下っ端だったであろうM君はまんまと「すすきの」担当になってしまったらしく、情報収集をしなければならなくなった。
学生時代もさほど頻繁にメールをやり取りする間柄ではなかったので、連絡が来たときは僕もうれしかったのだけど、メールの内容は「実はかくかくしかじかの事情で、すすきのの情報誌を送ってもらいたい」というものだった。
学生時代に住んでいた街で、様々な場面で出会った大人の男性に出身を聞かれて答えると、「札幌か。いいよな~」とよく言われた。ごく稀に「俺は二度と行かない!」という人もいた。
18歳で札幌を出た僕は「すすきの」に馴染みがなかったので、なぜこの街の男性は僕より札幌、特にすすきのに詳しいのか不思議だった。
学生時代に誰かに連れられて遊んだ経験が無い場所には未だに寄り付かないもので、ライブを観に行く以外ですすきのに出ることは無い。
M君のメールを受けて困った僕は誰にも相談できないので、なるべく普段行かないコンビニで「すすきのパラダイス」を買い求めた。名前が違ったらスミマセン。
メールで「買ったよ!」と送ると、今度は「じいちゃんが荷物を開けてしまうと気まずいので、なるべく厳重に梱包してほしい」と返信。
この要望は多少面倒くさかったし、じいちゃんが開封した方が面白いと思ってしまったので、茶封筒にハサミを入れて普通に送ってしまった。
旅行当日の夜、パラダイスへ旅立つ先輩たちを見送った後、M君は僕との待ち合わせ場所にやってきた。
元々色白の美少年だったM君は、小麦色に焼けた逞しい男になっていた。
どんな話をしただろうか。お互い地道な仕事の愚痴を言ったかもしれないし、景気の良い友人の噂話をしたかもしれない。
〆はM君の大好きなラーメンを食べに、産まれて初めてラーメン横丁に行った。「汁が旨いなぁ」と言いながら喜んで食べてくれたのを覚えている。
その年から毎年、M君が作った桃が我が家に届くようになった。
毎年桃をお願いするメールを打つが、超繁忙期のため返信が無いことも多い。
食べ方を書いてある用紙に短いコメントを書いてくれてあったり。
お礼に僕は秋刀魚かサッポロクラシックを送る。
年賀状にはそのお礼が書いてある。
1年間でたったそれだけのやりとりだけれど、とっても大切な交流だと思っている。
食べたことが無い人にはショッキングな程、新鮮な桃は固い。香りが良くて程よい甘さ。これはM君がつくったんだなと思いながらいただく。
M君の桃が固くて甘くて美味しければ美味しいほど、職業人?としてはどんどん引き離されていっている気がして、負けずに頑張らなければと思う。
まだまだ暑い日が続くと思うけれど、どうか元気でいてほしい。